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第29話 麗華の証言(1)

Author: G3M
last update Last Updated: 2025-12-06 08:12:53

 美登里は麗華と共に、椅子に座っている範経の正面に立った。

「麗華ちゃん、あなたの言い分をすべて話すのよ。まず範経に出会った時のことから始めて」

「はい。わかりました」と麗華。「真夜中にお父さんに連れられて範経お兄さんは家に来ました。戸惑とまどっているようで、とてもオドオドしていました。お母さんは、範経お兄さんは盗撮の犯人だから嫌がらせをして家から追い出す。だから私には関わらないようにと言っていました。でもお兄さんが来る直前に犯人でないことがわかって、嫌がらせをしないことになりました。でもお母さんは、範経お兄さんが私にいたずらをするんじゃないかってとても警戒していました」

「なるほど。それで麗華ちゃんは今何年生?」と美登里。

「六年生です。十一歳です」と麗華。

「だとすると、範経に初めて会ったのは五年生のときか。母親の気持ちは分かるわ。それで、それからの生活はどうだったの?」と美登里。

「両親は共働きなので、昼間はお兄さんと私だけでした。お母さんは夜遅く帰って来ましたが、お父さんはあまり帰ってきませんでした。夕ごはんはお母さんとお兄さんと私で食べていたのですが、お兄さんはとても居心地が悪そうでした」と麗華。

「なるほど。そんな状態がずっと続いたの?」と美登里。

「いいえ。お母さんが働きすぎで具合が悪くなったことがあって、そのときお兄さんが家事をやってくれたんです。それ以来、お洗濯以外の家事はお兄さんの役目になりました」と麗華。

「範経は料理ができるからな」と祥子。

「お兄さんの料理はみんな大好きです。私はハンバーグが一番好きです」と麗華。

「家族の胃袋を掴んだわけか。それで、麗華ちゃんはいつから範経のことが好きになったの?」

「だんだん、お兄さんが私の面倒を見てくれるようになって、お兄さんがやさしい人だって思うようになったんです。毎日ご飯を作ってくれて、お勉強を見てくれて、お話をしてくれました」と麗華。

「学校は楽しい?」と美登里。

「お兄さんが勉強を教えてくれたおかげで、少し楽しくなりました。友達ができて、家に友達を連れていったらお兄さんがお菓子を焼いてくれました。とてもおいしいお菓子で友達も大喜びでした」と麗華。

「いいことばかりね。それなら普通に子守をしているだけよ。なぜ麗華ちゃんの両親は範経を追い出すことにしたの?」と美登里。

「私がお兄さんのことを
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